クレイジーとは・・・こういう事だ!
(1998 BMG JAPAN PS,SS)
1 マイナーなれど・・・
まだPSとSSが第一線でがんばってた頃、その両方で同時に発売された一本の洋ゲーがありました。
恥ずかしながらその当時、私はまったくチェック入れてませんでした。
友人に教えてもらうまでこのゲームを知らなかったぐらいですので。
その友人にすすめられるままに借りて電源投入。
・・・・・・・・。
・・やめられません!
会社休んでハマりこんだ事が今ではいい思い出です(遠い目)。
発売当初はそれほど評判にもならなかったけど、口コミでその愉快すぎる噂は少しずつ広まっていったのです。
マイナーなれど、だからこそ、知る人ぞ知る。
荒削り、そして乱暴なまでに痛快。自らのウリに対して一切の妥協なし。人は選ぶけど、選ばれた人には極上の天国を見せてくれる、
今回紹介するのはそんなゲームです。
2 戦え(?)、我らがメッセンジャー
主人公には名前がありません。
説明書の最初のページに顔のアップがでーんと掲載。
それだけです。
プロフィール等も一切無し。
世界の平和を救う伝説の勇者でもなければ、何の取り得もないのに理不尽なまでに女の子にモテる男子高校生でもありません。
ひょっとしたら世界征服をたくらむ魔王の一人や二人は倒していたのかもしれませんが、このゲームではそんな事どうでもいいです。
本作「クーリエクライシス」は、有り体にいってお使いゲーム。3Dで作られた町の中を自転車で疾走しながら差出人の書類を受取人に渡して賃金をもらう。
そのステージのすべての書類を制限時間以内に受け渡せばステージクリア。一つでも間に合わなければ「クビだ!」(ゲームオーバー)。
とまあここまで言うと、似たようなゲームにより知名度の高い
「クレイジータクシー」
がありますが、私はオススメいたしかねます。
理由はまた後で簡潔に述べますが、入手困難でも是非本作をプレイしていただきたく思います。
話を戻します。
さきほども言いましたようにこのゲーム、やるべき事はいたってシンプル。チャリンコ走らせて時間以内に目的地にたどりつく、本当にそれだけ。
それだけです・・・が!
このゲームにはそれだけですまなかったりするわけで。
まずはゲームを立ち上げましょう。目も眩むようなオープニングに動ずる事無くプッシュスタートボタン。適当なボタンを2、3回押したらゲームスタート。箱庭みたいな街に、主人公が自転車にまたがり颯爽(?)と登場。
次に街を走ってみましょう。色んな人々がいます。道行くおっさん、おばさん、おにーさん、おねーさん、子供、犬、宇宙人(?)・・・いっぱい歩いてます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
殴れます。
はい。
殴れるんです。
おっさんを、おばさんを、その他道行く人々を。
かたっぱしから。
さらに、蹴れます。
それどころか、轢けます。
あまつさえ、倒れた人を二度轢きできます。(素敵な断末魔の叫びつき)
最高です。
天下の往来、我が物顔です。邪魔するヤツは容赦しません!
あ、カニが。
バゴ!
あ、ガキが。
ゲシッ!
あ、リトルグレイが。
バキッ!
素晴らしすぎます!!!!!!!!!!!!!!
本能のままに蹴って殴って、まさにやりたい放題好き放題。
それに、彼らだって黙って殴られてるわけじゃありません。近寄れば何の前触れもなく襲いかかってくるんです!ええ、そりゃもう容赦なく!!
おっさんも、おばさんも、ピザの宅配屋も、ガキも、カニだって強敵です。負けちゃいられません、殺られる前に殺ってください!
大体、チャリンコを操縦するゲームにありながら、パンチとキックに4つのボタンを費やしてるステキっぷり。それ以前に、主人公には走る凶器、チャリンコがあります!トップスピードの突撃喰らって立ち上がれるヤツなんていません。
おまけに、腕が上がれば上がるほど非道・・もとい爽快な攻撃が編み出せるというステキなバイオレンスの世界。タイミングとスピードさえバッチリ合わせれば、場外ホームランのような軌道を描いて吹っ飛んでいきます。人が。
しかもこのゲーム、名目上の本筋でしくじってもプレイヤーがやめない限り、そのステージをいつまでも走り続けられる仕様。
「あ・・す、好きなだけ、き・・気の済むまで殴っていいんだよ!」
という開発者のささやき声が聞こえてきそうです。
ですから、ゲームオーバーになった瞬間から、イッツショウタァイム!
徒手空拳で何人倒せるか挑むもよし。
歩道を全速力でかっ飛ばして、通行人をかたっぱしからボウリングのピンよろしくはね飛ばすもよし。
車のボンネットの上でジャンプ繰り返してペッシャンコにするもよし(サターン版だけ)。
パトカーに横づけして中指おっ立て、警官たちと全面戦争するもよし。
まさに本分そっちのけでのめりこめます。
3 「面白い」事をありのままに
カオス万々歳なテイストが注目を集める本作ですが、ゲームとしてもかなり完成度が高く、やりこめば必ず腕が上達する事を体感でき、しかも自らのプレイに酔えるアクションゲームのよいお手本。
おまけに洋ゲーときていますので難易度にも一切の妥協がなく、後半にさしかかるとそれこそ鬼のようなステージが目白押しで、クリアを目指すともなれば、それこそ神業並みの技量を要求しますし、それなりの修練をも要求されます。序盤は簡単だからってただ漫然とクリアするのではなく、すこしでもいい評価をもらってクリアしていかないと、最後の最後でえげつない泣きを見る事も。
あと、色々と取り揃えられたBGMが、どいつもこいつもサイコーです。
本当に、純粋に乗り物系ゲームとしても燃え上がる事ができるアツい内容です。
スピードアップやウイリー、ジャンプ、中には「ありえない」挙動もありますが、「面白い」を表現するにおいて、どれ一つ無意味な要素がありません。
自転車に乗って、数々のテクニックの駆使しながら時間内にメッセージを届ける。納得のいく挙動、自転車にして痛快なスピード感、手に汗握る緊張感。それだけでも十分ゲームとして本作は成功しているといっていいでしょう。
なのに・・
なのに、何故か殴り放題殴られ放題。
普通にゲームしてても十分面白いのに、本筋とは何の関係もないところで鬼のように気合入りまくり。
まったくかけ離れた架空の世界よりも、こういうありえそうでありえない世界にぶち込まれた極上の狂気が生み出す快楽が、これほどまでに心地よいとは。
作り手がちゃんと「遊び」を分かっているこのものスゴさ、さすがは洋ゲー。天才的なセンスの良さが結実したとしか言いようのないこのステキっぷり。
そのセンスは、人間が普通に生きててたどりけるような境地じゃありません。
ただ・・
ただ、その根本は単純なもの。
「自転車でやりたい放題やる」
愛車で思いっきりスピード出して走り回る。
人も車もおかまいなしに、速く、速く、風を切って――
まさにこの一言。
これを表現しているだけのゲーム、といっても過言じゃないと思います。
だけども・・
こんな、日常どこにでもころがっているような「できたら楽しいな」な事。
それを見抜くだけの目を養う事がどれだけ大変な事か。
「面白い」と思える事に気付く、この何気ないように聞こえるこの言葉、これがどれほど困難な事か。
あまつさえそれを表現する、それがどれほどの快挙か。
それを見逃さなかった事、そしてこともなげにゲームにして見せた事。その胸がすくまでに貫かれた痛快さこそが、「クーリエクライシス」の本当のスゴさ。
確かに、地味だけど、人は選ぶけど、決して大作ではないけれど・・・・
そう、マイナーなれど・・・・・なれど、その輝きは間違いなく一番星。
そして、「面白い」を表現する事の難しさ、素晴らしさをしみじみ感じさせてくれる本当に・・・本当にいいゲーム。
最大級の賛辞とともに、本作をオススメいたします。
最後に。
「クレイジータクシー」よりも本作を熱烈に推す、その訳を申し上げて今回はお開きという事で。
「人一人満足に轢けなくて何がクレイジーか!!!!!」
お楽しみに!